悪性腫瘍とビタミンC

悪性腫瘍とビタミンC総論
現在、がんに対して広く行なわれている療法は、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法などがあります。ある研究では、ビタミンCなどの抗酸化物質が通常の治療効果を弱めてしまう可能性を報告しています。化学治療や放射線治療など、がん治療の一部は、活性酸素を発生させてがん細胞を攻撃することにより治療効果を発揮します。ところが、ビタミンCなどの抗酸化物質をサプリメントとして大量に摂取すると、その抗酸化効果により活性酸素の作用が弱くなるため、治療効果を阻害する可能性を危惧しているのです。これら広く行なわれている療法は、ガン細胞にたいする侵襲的な治療方法で、がん細胞を壊死させたり、増殖を抑制することに重点を置き、結果として生体の防衛力、自然治癒力の低下を来たしている可能性を軽視しています。
ビタミンCなどの抗酸化物質の摂取は、栄養素を至適濃度に保ち、さまざまな生体機能を向上させ、私たち自身が本来もつ力を発揮することにつながり、がん治療の補完治療として大変意義のあるものと考えます。

ビタミンCのガン予防効果
ビタミンCの作用には、抗酸化剤としての作用と水酸化酵素の補酵素としての作用がありますが、両者は本質的には同一で、共にビタミンCの持つ強力な還元剤としての特性に基づいています。これらビタミンCの作用は、ガン予防においても多岐にわたる効果をもたらしています。
実際、ガン発症率と柑橘類などのビタミンC摂取量には逆相関が認められ、特に口腔、食道、胃、大腸等の消化器ガンや呼吸器ガンの予防に有効といわれています。消化管や肺は多くの外来異物に接する場であり、活性酸素の攻撃を特に受けやすいためです。

人は1日に約2.5リットルの胃液を分泌しますが、胃液中には胃酸の分泌機構と連動して高濃度のビタミンCが分泌され、ニトロソアミンをはじめとするさまざまな発ガン物質を無毒化しています。発がん物質として考えられている魚肉タンパクの分解で生じる2級、3級アミンとソーセージやハムなどに発色剤として添加されている亜硝酸塩とが胃内の低pH条件下で反応してニトロソアミンを生じます。ビタミンCは亜硝酸塩を還元して一酸化窒素にし、アミンとの反応をブロックし、ニトロソアミンの生成を抑制します。これらの食品に、必ずビタミンCが添加されているのはこのような理由によります。

慢性胃炎や萎縮性胃炎では胃酸分泌量低下のため、胃液中のビタミンC含有量が低下しています。ヘリコバクター・ピロリは慢性胃炎を発症し、胃ガンの発生と関係が強いことが知られています。ヘリコバクター・ピロリに感染によって慢性胃炎を発症すると、胃酸の分泌量低下によるビタミンC含量の低下だけでなく、低酸状態となってビタミンCの分解も進み、ビタミンCのさらなる補給が求められます。
また、ビタミンCには胃の粘膜保護作用や、緩下作用で有害物質が腸粘膜と接する時間を低下させることにより、がん発生のリスクを低下させる効果も期待できます。

肺などの呼吸器は、酸素やオゾン、さまざまな大気中の汚染物質に絶えず暴露しています。ビタミンCの摂取は、これらの酸化ストレスからの防御に役立ち、呼吸器系のガン予防に有効です。

また、ガン発症を予防するビタミンCのその他の作用として、免疫力の増強作用、膜やDNA、タンパク質の活性酸素によるダメージからの防御などが考えられます。実際、アスコルビン酸の欠乏により食細胞の機能や免疫応答能が低下しますが、アスコルビン酸の至適補給によってキラーT細胞の活性の上昇、インターフェロンの生成促進など、免疫機能改善効果が報告されています。

ビタミンCのガン抑制効果と臨床応用
1. 脂肪代謝とビタミンC
ガン増殖のエネルギーは嫌気性解糖に依存しているため、グルコースや体内貯蔵脂肪が大量に消費されます。さらに、ナイトロジェントラップが活性化し、体タンパク異化亢進状態が進行します。ガン悪液質は、進行ガンによる極端な栄養欠損状態として理解できます。つまり、ガン患者は「ガンで死ぬのではなく、栄養欠損で死に至る」といっても過言ではないのです。

ガン患者の多くに体脂肪の減少がみられます。これは脂肪分解亢進、体脂肪合成の低下により、脂肪組織から遊離脂肪酸が大量に放出され、エネルギー源としてケトン体の利用が高まることによります。貯蔵脂肪は減少しますが、血中の中性脂肪(TG)は上昇し高脂血症もみられます。これはリポプロテインリパーゼ(LPL)の活性の低下が指摘されていますが、一方、アセト酢酸CoAトランスフェラーゼ活性が上昇しており、アセト酢酸の利用が亢進しています。とすれば、宿主のよりスムーズなエネルギー代謝を促進するためにカルニチンの需要は増大しているわけで、カルニチン産生にはより大量のビタミンCの必要性が生じていると思われます。

ビタミンCは、術後の栄養補給においても需要が高くなっています。ガンの手術後の影響は術後3日目位まで続き、この間は回復期ではなく、術後侵襲の最中にあると理解しておかねばなりません。術後2日目のホルモン分泌状況は非常に興味深く、糖新生が進み、グルカゴンの作用などによって本来は高血糖を示すはずなのですが、インスリンの過剰分泌によって血糖は結果的に正常範囲にあります。内田らのグルコースクランプテストによれば、術後2日目はなぜかインスリン抵抗性が強いと報告しています。このことはストレスによりノルアドレナリン、コルチゾールなどが分泌され、これらのホルモンはインスリン抵抗性を惹起し、糖利用を抑制します。この現象は「外科的糖尿病」と呼ばれ、糖尿病患者は手術により病態の増悪をきたすことがあって注意が必要です。

呼吸商とは炭酸ガスと酸素の比で、通常人は1分間に250mlの酸素を消費して、200mlの炭酸ガスを排出しています。200÷250=0.8で、呼吸商は0.8となります。呼吸商は、エネルギー源としてブドウ糖を利用すれば大きくなり、脂肪酸化が亢進している場合は小さくなります。呼吸商の術前と術後の比較では術後の方が小さく、術後の呼吸商の低下は糖利用の抑制を示し、脂肪酸を酸化してエネルギーを獲得しているため高ケトン症を発症しやすくなります。これらの理由で、脂肪酸の輸送に関わるカルニチンの需要が亢進し、カルニチン産生に必要なビタミンCがより大量に必要となります。
また、同様の理由から高カロリー輸液とともに脂肪乳剤を用いる際にも、ビタミンCの需要は増加します。

2. 貧血とビタミンC
ガン患者に貧血と鉄欠乏はほぼ必発といってよく、病態の進行とともに出現頻度は高くなります。ビタミンCには鉄の吸収を高める作用があります。食品中の非ヘム鉄Fe(Ⅲ価)が胃から吸収されるためにはFe(Ⅱ価)に還元されることが必要で、ビタミンCは鉄を還元して吸収率を高めます。

また、鉄は血色素の材料以外にも、チトクロームP450による体内異物の代謝、ミトコンドリアの電子伝達系におけるエネルギー産生、活性酸素消去酵素など様々な体内酵素の材料として必要で、鉄欠乏状態ではこれら恒常性の維持に影響を及ぼします。

3. ガン浸潤と血行性転移の防御
ビタミンCには、ガン細胞による基底膜や血管壁の破壊による浸潤や血行性転移を阻止する作用もあります。ガン細胞が放出するヒアルロニダーゼが周辺のムコ多糖類ヒアルロン酸を分解して、間質マトリックスを脆弱化させ、増殖するガン細胞の浸潤を助長します。アスコルビン酸は生理的に存在するヒアルロニダーゼ抑制物質を増やすことによって、間質マトリックスの崩壊を防ぎます。また、大量のアスコルビン酸の投与は間質コラーゲン線維の形成を促進し、ガン細胞を被包化してガン浸潤を抑制します(コラーゲンバリアー)。このような作用は、壊血病動物の脆弱化した間質マトリックスを修復するアスコルビン酸の作用に類似しています。

三羽らは、ビタミンC投与でガン転移が抑制されたことを、動物実験で示しています。ガン細胞はMMP酵素を産生し、結合組織を溶解し浸潤しますが、ビタミンCはこのMMP酵素産生遺伝子を抑制すると報告しています。

ガン治療にもビタミンCの大量療法が行われています。
アスコルビン酸静注による細胞外コラーゲン生成および免疫機能増大作用に着眼したRECNACのRiordanらの治験成績によると、アスコルビン酸は単なる生物学的調節機能以上にガンに対して殺性を持つことが明らかになり、この特性は多くのガンに当てはまるとしています。その機序は、ガン細胞はカタラーゼ活性が低いため、大量のアスコルビン酸によって生成された過酸化物質の影響を受けやすいことによると考えています。
ただし、この治験はまだ試験的なもので、二次的治療の選択肢のひとつとして考慮するように忠告しています。

4. 免疫力増強
ガン予防の項目でもすでに述べたとおり、治療面でもビタミンCによる免疫力増強効果は、ガン治療の補助手段として期待できます。

まとめ
以上のように、ビタミンCには様々なガン予防および治療への可能性が存在します。分子整合栄養医学の父、ライナス・ポーリング博士がビタミンCによるガン予防と治療の可能性を提唱して以来、様々な医学会の抵抗を受けてきました。しかし、21世紀に入った現在、医学会が見直しつつあるビタミンCの可能性の一端として、ガン予防および治療でもさらなる新しい知見が見つかり、ガン予防および治療におけるスタンダードとなる日が遠くはないことを確信しています。

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