現在、欧米諸国の死亡順位の第1位は心疾患です。日本では、死亡順位の2位が心疾患、3位は脳血管疾患となっています。中でも動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳梗塞など血栓症の顕著な増加を認めます。これらは、食生活の変化が大きな要因といえます。
イヌイットの心臓病死亡率
イヌイットと呼ばれる北極圏の住人は、昔から心筋梗塞発症リスクの低いことが知られています。デンマーク在住の白人とグリーンランドイヌイットの心臓病に よる死亡率を比較すると、約35%と約5%で7倍もの差があります。調査の結果、両者の摂取脂肪総量はほとんど変わりませんが、イヌイットの血液中には彼 らの主食とするアザラシや魚の脂肪に多く含まれるn-3系脂肪酸(EPAやDHA)が多く、デンマーク在住の白人の血液中には陸上動物の脂肪に多く含まれ るアラキドン酸が多いことがわかりました。つまり、魚食中心と肉食中心の食生活の違いで血液中の脂肪酸組成に差を生じ、結果虚血性心疾患による死亡率に7 倍もの差を認めたのです。
n-3系脂肪酸(EPA/DHA)の効果
アラキドン酸は動脈硬化を促進しますが、n-3系脂肪酸には①血液をサラサラにする、②血管をしなやかにする、③中性脂肪を下げる効果があることが確認さ れています。また、n-3系脂肪酸を長期間摂り続けると動脈硬化疾患の進行を遅らせる可能性があることも分かっています。
心筋梗塞発症リスクに関する日本の研究でも、n-3系脂肪酸をほとんど摂取していない人達と比べて、1日平均0.9g摂取した人は41%低くなり、1日平均2.1g摂取していた人は65%低くなりました。
n-3系脂肪酸(EPA/DHA)の摂取目標量
では、一体どれくらいのn-3系脂肪酸を摂取すればいいのでしょうか。厚生労働省は、心筋梗塞や脳梗塞などの生活習慣病を防ぐために「日本人の食事摂取基 準」を設定しており、この中でn-3系脂肪酸の摂取目標量を定めました。年齢や性別で目標量は異なりますが、1日2〜3g以上を摂取目標としています。
魚に換算すると、ニシン(生)1尾、マイワシ(丸干し)5尾、サバ(生)2切れ、ホンマグロ(鮨ねた)9貫など、かなりの量です。さらにn-3系脂肪酸は非常に酸化しやすいため、新鮮な魚を食べることが大切です。
HDLコレステロールが低い方や中性脂肪が高い方には、EPA製剤や魚油のサプリメント摂取をお勧めします。