【 遺伝子組換え作物の現状 】
遺伝子組換えという言葉はよく耳にしますが、その内容を正確にご存知の方は少ないのが現状でしょう。品種改良と違って、複数の生物の遺伝子を合体させて全く新しい生物を創造するのが遺伝子組換えです。例えば、ブタにクラゲの遺伝子を組み込むと、鼻とヒズメがクラゲのように光るブタができます。現在日本で承認され、流通している遺伝子組換え作物は、ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、綿、てん菜、アルファルファの7品目です。これは世界的にも同じで、これらの作付け面積は日本全土の約1.8倍で、米国(ダイズ・トウモロコシ)、アルゼンチン(ダイズ)、カナダ(ナタネ)、ブラジル(ダイズ)、中国(綿・近年中にコメ、ジャガイモが導入?)が主な生産国で、ヨーロッパではほとんど生産されていません。ヨーロッパと米国の立場は全く異なり、ヨーロッパでは遺伝子組換え食品はほとんど流通しておらず、その規制も厳しいため、アメリカはEUの流通規制を違法としてWTOへ提訴しています。 日本では研究用に作付けされていますが、現在商業用の作付けはありません。ただし、日本の流通規制は非常に緩く、世界中で一番遺伝子組換え作物を多く食べているのは日本人です。アメリカではダイズやトウモロコシは家畜の飼料になる割合が多いのが実情のようです。日本人はもっと遺伝子組換え作物の現状を知る必要がありそうです。
【 遺伝子組換え作物の生産目的 】
現在流通している遺伝子組換え作物のほぼ100%は、生産コストを下げて利益率を上げる、つまり生産者メリットといえます。具体的には、現在全世界で作付けされている遺伝子組換えダイズは、アメリカのモンサント社の除草剤耐性ダイズ1品目です。もともと、モンサント社はラウンドアップという除草剤の会社で、ラウンドアップは無差別に全ての植物を根の先までみごとに根こそぎ枯らしてしまう強力な除草剤です。このラウンドアップ生産工場の排水溝から見つかった除草剤耐性微生物の遺伝子を組み込んだのが除草剤耐性ダイズです。その耕法は、まずラウンドアップで農地の全ての雑草を根こそぎ枯らしてしまいます。次に耐性ダイズの種子を撒き、途中でもう一度ラウンドアップで除草します。確かに手間はかからない耕法です。ただし世界中で作付けされている遺伝子組換えダイズの種子はモンサント社からしか購入できず、自家栽培(自分で種子をとること)は特許権の侵害になります。 数年前の統計では、米国の80%が遺伝子組換えダイズと推定されます。日本のダイズ自給率は約5%で、日本の輸入ダイズの約75%は米国産です。計算上日本で使用されているダイズの約60%が遺伝子組換えで、現在遺伝子組換えダイズの使用割合はさらに増加中です。 他には、BT菌という殺虫毒素をもつバクテリアの遺伝子を組み込んだ殺虫性作物がありますが、文字通り虫も食べない作物といえます。除草剤耐性と殺虫性の2種類が現在流通している遺伝子組換え作物のほぼ全てです。 第二世代(消費者メリット)の遺伝子組換え作物として、鉄分増強レタス(ダイズの遺伝子を組み込んだレタス:レタスとダイズを食べればよい?)や、第三世代(医薬品)の遺伝子組換え作物として、スギ花粉症イネ(スギのアレルギー物質を入れたイネ:減感作療法として効果がある?)などが考案されていますが、いずれも生産目的に疑問を感じます。
【 遺伝子組換え食品の表示 】
遺伝子組換え食品の表示法は、遺伝子組換え食品に対する国の考え方で大きな違いがあります。ここでは、遺伝子組換え食品に否定的なEUと、無関心な日本の違いを考えてみましょう。 まずEUでは、全食品表示が義務付けられています。ここで特筆すべき点は、スーパーなどに並んでいる全食品はもちろん、レストランのメニューまで表示義務あります。表示方法は、遺伝子組換え作物の使用が「有り」と「無し」の2種類です。また、無表示は遺伝子組換え作物の使用無しを意味します。EUでは遺伝子組換え作物はほとんど流通していないのが現状ですから、ほとんどの商品は無表示です(使用ありは「GMO」と表示)。 日本では、ダイズ・トウモロコシ・ナタネ・ジャガイモ・綿実・てん菜・アルファルファの7品種と、これらの作物を主な原材料とする32種の加工食品(豆腐・納豆・みそ・きな粉・コーンスナック菓子・ポップコーンなど)に表示義務があります。ただし、醤油・ダイズ油・コーン油・コーンフレーク・マッシュポテトなどは、検出技術の問題や製造過程によるタンパク分解を理由に表示義務はありません。 表示方法は、1.「遺伝子組換え」(義務表示) 2.「遺伝子組換え不分別」(義務表示) 3.「遺伝子組換えでない」(表示義務なし)の3種類です。 「豆腐」と「コーン油」を例に日本の表示の問題点を考えてみましょう。「豆腐」は表示義務がありますから、無表示の場合は「遺伝子組換えでない」と同じ意味になります。ところが、「コーン油」は表示義務がありませんから、無表示の実態は「遺伝子組換え」または「遺伝子組換え不分別」の意味になります。実際、大手の食用油製造メーカーへのアンケートでは、回答の100%が「遺伝子組換え不分別」だったそうです。つまり、表示義務のある32品目を知らなければ、消費者にとって無表示の意味は全く逆になってしまうのです。また、「遺伝子組換えでない」の表示でも、重量で5%未満の遺伝子組換え作物の混入は許されています。実際、米国から輸入される遺伝子組換え未使用ダイズでも約1%の混入があります。ちなみに、EUでは混入率は0.9%未満と規定されています。
【 遺伝子組換え作物のリスク 】
では次に、遺伝子組換え食品のリスクについて考えてみましょう。 間接リスクとして、使用量増加によるラウンドアップなどの除草剤の人体残留の増加があります。有機リン系の除草剤は有機リン系の殺虫剤(人体への神経毒性あり)と構造が類似しており、子どもたちの脳への影響を心配する報告もあります。また、アレルギー疾患増大の可能性やダイズ中のホルモン撹乱作用、免疫力低下などの可能性を示唆する報告もあります。 もうひとつの危惧は、遺伝子組換え作物の自然界での自生と、他の植物との交配です。米国では、遺伝子組換えダイズの交配による汚染は深刻な問題です。日本でも、輸入港付近で遺伝子組換え作物の自生が報告されています。また、ナタネ科の白菜などは自然交配の危険にさらされています。これらの遺伝子組換え作物を、隔離し、コントロールすることは不可能でしょう。
セイタカアワダチソウやブラックバスのように、遺伝子組換え作物が自然界に拡がるのは時間の問題と私は考えています。