現在、欧米諸国の死亡順位の第1位は心疾患です。日本では、死亡順位の2位が心疾患、3位は脳血管疾患となっています。中でも心筋梗塞や脳梗塞など、動脈硬化による血栓症の顕著な増加を認めます。これらは食生活の変化が大きな要因となっています。
イヌイットと呼ばれる北極圏の住人は、昔から心筋梗塞発症のリスクが低いことが知られています。実際、デンマーク在住の白人とグリーンランドイヌイットの心臓病による死亡率を比較すると7倍もの差があります。
そこで、心臓病による死亡率に差が出る原因を調査してみると、両者の摂取脂肪総量はほとんど変わりませんが、イヌイットの血液中には彼らの主食とするアザラシや魚の脂肪に多く含まれるω-3系脂肪酸(EPA/DHA)が多く、デンマーク在住の白人の血液中には陸上動物の脂肪に多く含まれるアラキドン酸が多いことがわかりました。つまり、魚食中心と肉食中心の食生活の違いで血液中の脂肪酸組成に差を生じ、結果、虚血性心疾患による死亡率に7倍もの差を認めたのです。
アラキドン酸は動脈硬化を促進しますが、ω-3系脂肪酸には①血液をサラサラにする、②血管をしなやかにする、③中性脂肪を下げる効果があることが確認されています。また、ω-3系脂肪酸を長期間摂取し続けると動脈硬化疾患の進行を遅らせる可能性があることも分かっています。
日本の研究でも心筋梗塞発症のリスクは、ω-3系脂肪酸をほとんど摂取していない人々と比べて、1日平均0.9g摂取した人は41%低くなり、1日平均2.1g摂取していた人は65%低くなりました。
では、一体どれくらいのω-3系脂肪酸を摂取すればいいのでしょうか。厚生労働省は、心筋梗塞や脳梗塞などの生活習慣病を防ぐために「日本人の食事摂取基準」を設定し、この中でω-3系脂肪酸の摂取目標量を定めました。年齢や性別で目標量は異なりますが、1日2~3g以上を摂取目標としています。
魚に換算すると、ニシン(生)1尾、マイワシ(丸干し)5尾、サバ(生)2切れ、ホンマグロ(鮨ねた)9貫など、かなりの量です。さらにω-3系脂肪酸は非常に酸化しやすいため、新鮮な魚を食べることが大切です。HDLコレステロールが低い人や中性脂肪が高い人には、EPA製剤や魚油のサプリメント摂取をお勧めします。